天ぷらとEC

皆さん、特定のこだわりがある、好きな食べ物はありますか?私の場合、そう質問されたら「天ぷら」と迷わず答えます。「天ぷら女」というそのまんまな名前で食べ歩きのインスタアカウントを作るほど天ぷらの虜になっている今日この頃。

昨今、飲食店が自分でECサイトを運営して、自分の店のメニューを販売しているケースも増えましたが、それは冷蔵や常温で配送できるものに限ったことで、天ぷらのようにアツアツを食べてナンボ系のメニューは、オンラインでの販売はなかなか難しそうです。というわけで、天ぷら屋さんがWebでできることはないのかな?というテーマで語ってみたいと思います。

あと、コマースはあまり関係ないのですが、ここぞとばかりに天ぷらの歴史や魅力についてもプレゼンさせてもらいますので、この機会にぜひ天ぷらを好きになってもらえると嬉しいです(笑)。

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高級化と大衆化を繰り返す天ぷらの歴史

海外の方が思い浮かべる代表的な日本食と言えば…日本食レストラン海外普及推進機構によると、すし、しゃぶしゃぶ、すき焼き、みそ汁などが挙がるようです。その一角を担うのが、我らが天ぷら!

そんな”レペゼン日本”みたいな顔をしている天ぷらですが、もともとは南蛮料理が発祥で、室町時代に鉄砲の伝来とともにポルトガルから伝わったとされ、ポルトガル語の「テンポーラ」が語源という説があるようです。

他にも、安土桃山時代にこれまたポルトガル人が長崎に伝えた南蛮料理が「長崎天ぷら」になったという説もあります。こちらは調理法も残っていて、衣に水を加えず、小麦粉や卵、酒、砂糖、塩を混ぜたフリッター上のものだったらしい。今よりももふもふした衣だったんですね。

当時、油は大変貴重でした。なので当然、油で揚げる天ぷらは高級品であり、庶民の口には入りませんでした。庶民でも食べられるようになったのは江戸時代から。江戸時代の江戸は屋台料理が流行しており、屋台寿司や屋台蕎麦と並んで天ぷらも立ち食い屋台で串に挿して売られていました。江戸では火事はご法度だったので、屋内よりも屋外(屋台)での調理が理にかなっていたようです。

その後明治時代に入り、専門店や料亭で天ぷら料理が食され、専門店としての地位が高まったこともあり再度高級化。加えて昭和に突入すると太平洋戦争等による食糧難で油が高級化したことも、天ぷらの高級化に拍車をかけました。

高度経済成長期になると、食用油脂の生産量増加により一般家庭でも油が使えるようになり、再び大衆化。家庭料理としての天ぷらがメジャーになります。

参考(https://www.showa-sangyo.co.jp/enjoy/encyclopedia/01/

寿司と比例して、年々影が薄くなる天ぷら業界

そんな歴史を持つ天ぷらですが、近年業界として元気がなくなってきている気がします。日本フードサービス協会によると、飲食店の数自体はコロナの影響でここ数年は減少傾向にあるものの、140~150万店舗を推移しています。飲食業界は入れ替わりの激しい業界なのでもちろん店舗の入れ替わりはありますが、総数としてはそこまで大きな増減はないようです。

厚生労働省「飲食店の営業施設数の推移

日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査 2023年4月度結果報告

次に、天ぷらとよく一緒に語られる寿司店はどうなのか。個人店も含む正確な業態数が調べきれなかったためチェーン店の数字になってしまいますが、日本ソフト販売が公表している数字によると、2021年~2022年にかけて寿司店の店舗数は+3.6pt増え、2022年~2023年にかけては+2.0pt増加と、年々増え続けているのに対し、天ぷらは21~22年が-6.0pt、22~23年が-5.2ptと、減少の一途をたどっています。

これはチェーン店のみの結果ですが、個人店もある程度同様の傾向なのかなと思います。

日本ソフト販売「【2023年版】飲食店チェーンの店舗数ランキング

加えて、そもそもの絶対数が寿司店よりも天ぷら店の方が少ないです。食べログで寿司屋で絞り込んだところ、全国に寿司屋として登録されている店舗は865店あるのに対し、天ぷら屋は234件しかありませんでした。この絶対数の少なさも、いまいちメジャーになりきれない要因なのでしょうか。

コロナ渦で広がったテイクアウト利用

寿司の隆盛に対して天ぷらの落ち込みの理由として、事業継承の問題や高級店一極化でエントリー層向けの店がない、など色々あると思いますが、そのうちの一つに寿司は冷めても食べられる(というかもともと熱々じゃない)が、天ぷらは出来立て熱々を食べないととたんにまずくなるからテイクアウトに向いていない、という店外での食事提供の難しさもあるのではないかなと思います。

ぐるなびが2020年5月に同サイト会員に対して行ったアンケートによると、4割以上の人が「直近1か月のテイクアウト利用が増えた」と回答し、3割以上の人が「今後利用が増えると思う」と回答したそうです。

ぐるなび「飲食店のテイクアウトに関する調査レポート

コロナ渦で寿司屋が店舗数を伸ばし、天ぷら屋が減っている要因の一つには、この”イートイン以外で食べるのが難しい、店に来てもらわなければ利益が作れない”という問題もあるのではないでしょうか。

Webに活路は見いだせないのか?

大好きな天ぷら業界、なんとか活路を見出してほしい。ということで、2つほど参考になりそうな事例を見つけてきました。

名店のあの味をご自宅で再現

名店のあの味をご自宅で再現…つまり、飲食店が提供するミールキットです。材料と作り方だけ提供して自宅で揚げてもらうという方法で、似たような業態であるとんかつ店の超有名店「とんかつ成蔵」さんはぐるなびとコラボしてとんかつを自宅で揚げるミールキットを提供しています。

ぐるなび「ミールキット

もちろん、天ぷらは繊細な技術を要する食べ物だし、高級店であればあるほど食材の鮮度も重視するだろうから、お店で職人さんが揚げるものとまったく同じものを素人が家で再現できるとは思いません。ただ雰囲気は感じられるし、それを食べておいしければ「やっぱり店でも食べたい!」という気持ちになって、来店動機にもつながるのではないでしょうか。

企業とのコラボは有名店でないと難しいかもしれませんが、Shopify等で自分でECを作ってしまって、ミールキットをそこで売るというのもありだと思います。

ECで扱う商品は、何も天ぷらだけじゃなくていいのでは?

熱々をECで!みたいなテーマで語っているのに元も子もないのですが、ECで販売するのは何も天ぷらだけじゃなくてもいいと思うのです。例えば、天ぷら屋さんは揚げ油にめちゃくちゃこだわっておられて、素材によって油の配合を変えたりされています。そういうオリジナル配合の揚げ油を販売するとか、自分がこだわってセレクトしたものを売る、天ぷら職人としての目利き力でバイヤーをする、というのもアリなのではないかな、と思います。

それで成功されているのが「酢飯屋」というお寿司屋さんが展開するECサイト「神楽市場」です。

神楽市場

上のキャプチャを見ていただいても、南高梅だったりポップコーン用のとうもろこしだったり、本だったり、お寿司と一見関係のない商品(だけど、寿司屋としての目利き力でセレクトしたこだわりの品)を扱っていらっしゃいます。さらに、季節のイベントチケット等もECで販売されているので、普段ECしか見ない層に対して、お店への来店動機づくりにもECを活用されています。

先にも書いたように、必ずしもイートインの減少が天ぷら屋の元気のなさの要因ではないと思います。そこには事業継承など様々な問題が絡み合っていますし、難しい問題ではあるのですが、Webを活用することで利益が生まれ、少しでも天ぷら業界が活気づくと良いなと思うのでした。