Eコマースのサイト内検索を考える

本日は、モールやECサイトで検索する時に使う、サイト内検索についてのお話です。

サイト内検索はユーザーがよく利用する機能だと思いますが、実際は検索意図通りに望む商品がぱっと出なかったり、モールだと同じ商品が異なる価格や画像でたくさん表示されて、どれを選べば良いのか決めかねて、結局離脱…みたいな経験は誰しもあると思います。

本日は、サイト内検索がいかに大事か、大事だけど手入れをするのがなぜ難しいのかについて話していきます。

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Eコマースの非購買理由の一つが検索精度の低さ

Googleは2021年の11月に、サイト内検索の調査記事を公開しています。

https://cloud.google.com/blog/ja/topics/retail/search-abandonment-impacts-retail-sales-brand-loyalty

調査会社の The Harris Poll が10,000人以上のショッパーと200以上のECサイトの管理者を対象とした調査によれば、米国の消費者の 4 人中 3 人(76%)がECサイトで商品を検索しても見つからないと買うのをやめ、48% が他の場所で商品を購入しているとのこと。

回答者の半数以上(52%)は見つからない商品が 1 つ以上ある場合はカート全体を放棄して、他のサイトに行くとも回答しています。

これは、検索放棄(Search abandonment)と呼ばれる現象で、EC業界、特に商品点数の多いモールや中規模以上のECでは以前から大きな課題になっています。

また、同記事では「検索はECサイトで最もよく使用される機能であり、初回以降の購入の成立可否に影響を及ぼす」という言及があります。

消費者の 10 人中 9 人は、優れた検索機能が「非常に重要」または「絶対に不可欠」であると答えており、97% は、お気に入りの小売ウェブサイトが、探している商品をすぐに見つけられるサイトであるとしています。

一方、米国の消費者の 77% は検索しづらかったウェブサイトには再訪問しません。米国の消費者の 77% はウェブサイトで商品を検索しても見つからないと、ブランドの評価が変わります。また、75% はウェブサイトで欲しい商品が見つけにくい場合、ブランドのロイヤリティが低下すると答えています。74% は、企業が自社ウェブサイトの改善に投資しないのなら、買い物はしたくないと回答しています。

https://cloud.google.com/blog/ja/topics/retail/search-abandonment-impacts-retail-sales-brand-loyalty

多少恣意的な調査項目という気もしますが、上記のような記載もあり、検索機能がブランドやサイトの評価に強い影響をおよぼすというのは(体感とも一致するし)ある程度信頼できる結論のように思えます。

なお、上記の記事では、

Google 検索で「in stock(在庫あり)」と入力して検索する数は前年比で 800% 増加しています。簡単に言うと、買い物客は探している商品が簡単に見つかることを期待しており、最終的に実店舗に足を運ぶとしても、小売業者のウェブサイトから検索を始めることが少なくありません。

https://cloud.google.com/blog/ja/topics/retail/search-abandonment-impacts-retail-sales-brand-loyalty

という記載もあり、コロナの影響によってショッピングの行動が変わってきている(ECの優先順位が高まったので在庫検索が増えた)という因果関係で説明しているが、検索放棄自体は以前からある問題です。

むしろ、サイト内検索が明確に機能しているという消費者側のパーセプション(認識)があれば、目的のウェブサイトに行ってからサイト内検索をすればよいわけで、在庫検索が増えたということは、横断検索の方を信頼しているという傾向が見て取れるのではないでしょうか。

実際にAmazonをメインで使う場合はそうしている人が多いと思いますし、小売のスタートページとしてAmazonが機能しているという調査結果は多いです。

画像引用元:Civic Science

上記の調査は2020年のものでコロナの影響を受けてはいますが、2019年に行われた同様の調査もほぼ同じ割合だったようなので、コロナだったからといってAmazonで改めて買うようになったり他のショッピングサイトからAmazonへ移ってきたユーザーが増えたわけではなく、以前からAmazonの利用者がとても多いということになります。

逆にGoogleを使うということは、特定のサイトでの検索よりも横断的な検索という優先順位(あるいは順序)ということなので、断定はできないものの、傾向としてはサイト内検索よりも横断検索を優先しているというユーザー行動が影響しているとも言えます(Googleで商品検索をする場合、サイトに入る前に既に比較・選別されている)。

つまりサイトに入ってくる前に半分勝負は決まっているのですが、もう半分の決まっていない状態で訪問してきてくれたユーザーも、先述の調査結果のようにサイト内検索の品質が低いせいで逃してしまい、かつブランド・ロイヤリティを毀損していることになりかねません。

集客が弱いとそもそも勝てないけど、仮に強くてもサイト内検索が弱ければロイヤリティを下げてしまう負のスパイラルに貼っていしまう。

だからこそ、サイト内検索はとってもとっても大切なんです。

大事なのに、改善がなかなか進まない

サイト内検索が大事なのは間違いないとして、では、これがずっとECサイトの課題として続いてしまっているのはなぜなのでしょうか。これもGoogleの記事からの引用ですが、

小売業者のウェブサイト管理者の88%が、検索放棄が企業にとっての問題であると認めており、90%が検索放棄が企業に与えるコストに懸念を抱いています。78%の管理者が、自社が消費者の製品検索に対して期待に応えるのに苦労していると認めており、41%の管理者が、放棄された顧客の検索が売上減少の最大の障害の1つであると述べています。

https://cloud.google.com/blog/ja/topics/retail/search-abandonment-impacts-retail-sales-brand-loyalty

上記のように検索が課題であることはEC運営者の多くが認識しています。ただし、

88% は、検索の放棄は自社の問題であると答えており、64%の企業は再検索を促進するための戦略がないことを明らかにしています。

という感じで、改善はたいへんな様子。

この要因は、いくつかの軸で考えられると思います。

環境面

  • 自社ECの場合、検索はカートの機能に依存している場合が多い
  • 「カートの標準機能を改善する」という発想は起きにくい
  • カートの検索機能の品質を図る機会や指標がない(自分で使ってみて不便さを実感するしかない)
  • 点数や規模が大きくならないと不便さを実感しにくい(機会)
  • どうなったら検索が改善したといえるのかの基準がわからない(指標)
  • カートは機会損失なのでそもそも気づきにくい
  • モールだと自社EC以上にどうしようもない(データの正規化が困難、表記ゆれ幅が大きい、SKU管理の不徹底による在庫問題など、障壁が大きい)

技術面

  • カート側に検索品質をアピールするインセンティブが薄い(マーチャントが新規カート選定の際に検索を重要視するケースが少ない。手数料とか簡便さに視点がいっている)
  • 結果的に技術に多大な投資をするインセンティブが少ない
  • マーチャントが大きくならないと課題に気づけない
  • 高度な自然言語処理や形態素解析、機械学習による類推やレコメンド機能などが必要で、カート側だと投資コストに対してメリットが少ない(ように見えてしまう)→だから検索を売上に転換できるリテールメディアが出てくる
  • 検索のレイアウトやデザイン(ボタンかボックスか、ATFかBTFか、など)も重要だが、ストアのデザインやテーマ、ソースコードに依存するので地味に対応がむずかしい
  • データ量次第ではサーバリソースを食うのでレスポンスが遅くなるリスクがあり自前で実装しにくい

費用面

  • カートにとっては多大な投資になるのに対して、メリットが少ない
  • モールにとっては自前が必須でメリットは大きいが、データの正規化ができていないので品質が上がりにくい
  • 自社ECはカート機能が無料で使えるので乗り換えにはコストよりも売上や利益が上がるような見積もりが必要だが、その調査や予測はむずかしい(→だからコストではなく売上になるリテールメディアが選ばれやすい)
  • 必要なECサイトほど規模が大きいので、結果的にコストも高い

分類してみると上記のような感じで、やらない理由は枚挙にいとまがないほどあります。

また、以下のような調査もあります。

Nosto の検索製品責任者、アンタナス・バクシス氏は次のように述べています。「この調査で興味深いのは、95% のブランドが現在の検索プロバイダーの問題点を挙げている一方で、84% が自社の検索に継続的に投資する予定であることに同意していることです」つまり、彼らは e コマースの方程式のこの重要な部分の重要性を理解しているのです。」

この調査は、ほとんどのブランドが現在のテクノロジーによって制限を受けていることを示唆しているため、オンサイト検索サービスの最適化に迅速に投資すれば、一部のブランドが競合他社よりも優位に立つチャンスが生まれる可能性があります。

Performace Marketing World

つまり必要性を理解していない>理解しているけどどうしたらいいかわからない>技術や費用面でやりたいけどやれていない

という感じで、段階的な壁があり、これを乗り越えていけるかどうかがポイントになるのですが、ただでさえ忙しいEC担当者は、そこまでじっくり考える余裕がないというのが現実的なところです。

改善するとこんないいことがある

ちなみに、改善すると良いことが起こるというアンケートや結果はたくさんあります。

消費者の 69% は検索で商品が見つかると別の商品も購入すると答えており、ほぼすべての消費者(99%)は検索機能が優れていれば、小売ウェブサイトに再訪問する可能性がある程度あると回答しています。

https://cloud.google.com/blog/ja/topics/retail/search-abandonment-impacts-retail-sales-brand-loyalty

つまり、検索放棄の問題はダメな場合のダメージは気づきにくい&甚大だけど、改善するとロイヤリティやCVRも上がり、かつサジェストや広告などにもつながる重要なリターンを得ることができるということ。

上述のGoogle (The Harris Poll)の調査でも「Search abandonment is high-risk-high-reward (検索放棄はハイリスクハイリターン)」と書いてあり、規模が大きければ大きいほど対策する・しないで差が開きやすい項目なので、ある程度の規模のECサイトになった段階で一度検討してみるのも良いのではないでしょうか。