フラクタ 河野さんに聞く~後編~ 生成AIはこれからのECにどんな影響をもたらすのか?

EPISODE15に引き続き、今回も株式会社フラクタの代表取締役 CEO 河野 貴伸さんをお招きしてお話を伺うゲスト回です。

前編では河野さんのこれまで辿ってきた道やShopifyとの関わり、ECの今後の可能性についてお伺いしました。

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後編となる今回は、生成AIがECに何をもたらすのか?について語っていただきます!

記事は要約版です。全編通してお聞きになる方は、ぜひPodcastを視聴してみてね!

▼今回分。AMラジオのノリで話しています。ぜひ聞いてみてね!▼


Eコマースにおける今は、一服のタイミング

わいわいワイド(以下、わ)「前回は後半でECの可能性について語っていただきましたが、今回はその可能性をもう少し広げた先のお話として、よく話題にのぼっている生成AIのお話をお聞きしたいと思います。生成AIは、ECにおいても当然無視できない存在であり、影響は大きいと思うのです」

河野さん「今現在は直近のコロナ渦でECが盛り上がった後の、ある意味一服のタイミングだと思います。そんな中で『ECの進化は終わったんじゃないか』と言われることもあるんですが、確かにある意味一つの時代は終わったかもしれない、でもECが劇的に伸びた特殊な時期が終わっただけで、実際そこで活動している人や文化や国家は変わらない。実際の歴史と同じように、緩やかにグラデーションして変化していくものだと考えています。

実際、Eコマースという文化自体はもう人々の生活に十分に浸透したので、逆に言えば消えることはなくなったと思うんですよね」

「もはや流行りとかそういう次元ではなくなっていると」

河野さん「例えば、もうAmazonなしの生活は考えられないし、ネットで買い物をするのは普通だし、ECがなければ生活できないという世界にはなったと思います。それはイコール、簡単に売上が上がるような世界でもなくなったということでもあるのですが、Eコマースが生活の一部になったというのはすごく喜ばしいことなんじゃないかなと個人的には思います。

「確かにみんな、普段はもうリアルとECのハイブリッドで買い物するのが普通の状態になっていますよね」

河野さん「なので、逆に言うと当たり前になりすぎて、テキストや画像といったものにはデータが残りにくくなっていって、トランザクションデータだけがずっとたまり続けていく。そういったデータの積み重なっていく末の、構造データを取り扱うっていうのがこれまでのECの流れでした。これは商品データも含めると、今後も構造化データはとても大事だと思うのですが、一方で大規模言語モデルみたいな感じで、構造化というよりは、まとめたらそれっぽくなるのではみたいな、そういうAI型のデータやCPUがどんどん巨大化していくことで、今まではイマイチだったものがすごく真実味を帯びるようになってきたというのが、生成AIなのかなと思います」

「当たり前のものの裏側にあるデータを積み重ねたら新しいムーブメントができてしまう、ということは往々にしてあるのかなと思うのですが、ECへの応用ではどういうものが考えられるんでしょうね」

生成AIのECへの応用

河野さん「例えば、当然のように繰り返していることって、当たり前ゆえに膨大な量になりますよね。みんなその量の膨大さに悩まされている。その点でECとAIはすごく相性が良いと思っていて、その最大の理由は現状のEコマースの世界は膨大な量をほぼ人間がさばいているんです。

例えば物流。物流って現時点では基本的に絶対人間が介在しないと無理なので、ほとんどのECサイトは管理画面にEC担当者が入って、問い合わせへの返信だとか同梱の判断だとかをしているわけです。膨大な量を人間が頑張って手作業やエクセルでさばくか、あわよくばTableauで可視化する。でも可視化だって結局人間がしているわけです。

それゆえにECは大変、辛い、評価されない、あまりやりたくない、と思う人が一定数出てきてしまう。だから人が増えないというのがずっとあったと思うんですよね。それをAIが解消できる可能性があるという意味では今すごく注目しています」

「どちらかというと、Eコマースの仕事を魅力的にするためにAIを活用できるかもしれないという感じですね」

河野さん「あとは、カスタマーサポートや社内の情報って、いちいち人に聞かないとわからない、この人しか知っている人がない、みたいなことってどこの会社もあると思うんですよ。

そういうものを極限まで減らすということは結構できると思っていて、実際に今僕らの社内でやっているのが、Notionにノウハウをまとめて、それを全部AIに食わせているので、Slack上で「Liquidで〇〇を書きたい」と書き込むと自動的に答えてくれるようにしています。

これまではテクニカルディレクターや僕が答えていたんですが、答えられる人が会議で不在だったりしたら会議が終わるまで待たなきゃいけない。でも当事者は今その瞬間に聴きたいわけです。そういうのって恐らくいっぱいあると思っていて、それは結構解決できると思います」

「それはいいですね。そこまでするには、ある程度それまでの蓄積がないとだめですね」

生成AIを扱う人間側の審美眼が重要になる

河野さん「そうですね。蓄積と、もう一つ大事なのが人間側の審美眼がないといけないと思っています。話は遡りますが、今はこんなに生成AIにハマっている僕ですが、Shopifyと同じでAIも最初は敵でした(笑)。

ChatGPTが出てきた頃に『こういうのが出てきたら河野さんの会社みたいな仕事はなくなるのでは』と言われたことがあって、社内のメンバーにそのままぶつけてみたんですよ。すると皆口々に考えていることを言ってくれたんですが、ただ単に否定するだけではなくて、『こういうことはありえるかもしれない』『これは人間にしかできない』みたいに議論が巻き起こった。それを見ていて、もしかしたらAIって敵のように見えていたけれど、実は徹底的に自分たちの武器に変えたら、すごく強くなれるんじゃないか?と思ったんです。

それで色々調べてみた結果、AIが出してくれるものに対して、それが良いか悪いかのジャッジは結局人間がしないといけないという結論に至りました。つまり、人間側は審美眼だったり、その情報が正しいか正しくないかだったり、人が見た時に不快感を感じるかどうかだったり、歴史的背景、心理的背景、文化的背景を考慮した上で判断する力だったり、そういう能力を鍛えていかないといけないということに気づきました。やはりどれだけAIが発展しても、結局そこは人間に残された意思決定という最後の壁だと思うんですね」

「本当にそうですね。割と広告の分野にも通ずる話で、いわゆる広告運用、ビッティングやコンバージョン予測などにはずいぶん前からAIが使われていますが、15年くらい前まではビッティングマネジメントが人間の重要な仕事の一つでした。それが今、ほとんどの広告運用ではそこはシステムに置き換わっているのですが、そうすると人間側はビッティングマネジメントを奪われたという感覚になるので、どんどん自動化していくと人間はいらなくなるんじゃないか、という議論はずっとありました。

結果どうなったかというと全くの逆でどんどん忙しくなっていて、例えばパラメータを入れるべきかどうかというところから、パラメータを入れたら後はAIが自動で動かしてしまうので、パラメータを入れることで何が起こるのかという予測を人間側がしないといけない。それを予測するためには中でどういうふうに動いているのかを詳しく知る必要があるし、そのアウトプットがクライアントや世の中に対して適切なのかどうかのジャッジをする必要もある。だから結局忙しくなるし、河野さんのおっしゃる通り意思決定の場所が変わっただけだと思うのです」

データは複製できるが、信頼は複製できない

河野さん「そうですね。一方で僕の中で一つだけ、もしかしたらこれも変わるかもしれないと思って試していることがあって、それは一切人間が介在せず100%生成AIが完了できるようになった時に、審美眼は機能するのかということなんです。

例えば広告でいえば、広告予算を得るためには人間や企業が前提として信頼されていなければいけない。信頼される”企業”や”人間”というのが絶対必要になりますよね。クリエイティブにしろ何にしろ、信頼というものが全てにおいて重要になると思うのですが、もしそれが信頼など関係なくフルオートで任せられるようになったらどうなるんだろう…と思うわけです。

分かりやすい例でいうと、この間家族でバーミヤンに行ったら、ロボットが食事を運んできたんですよ。それに僕、すごく感動して。そのロボットは一切人間の補助的なシステムが介在していないけれど、人々は別にそれに対して不快感もなく、自然に溶け込んでいたんですね。そんなに溶け込まれたら、自分たちの仕事は残るのだろうか、というのは結構検証をしようとしています。

一方で、信頼ってすごく重要なワードで、データはどんどん複製できるけど信頼は複製できない」

「信頼の閾値をどこに置くかで、今河野さんがおっしゃっていたサービスが変わるのかなと思いました。例えば一食三万円する寿司屋でバーミヤンのロボみたいなのが運んできたらちょっと嫌じゃないですか」

河野さん「そうですよね。その閾値をどこに置くのか、閾値そのものが変わってきたときにまたひと悶着起こるんだろうなと思います。こういう議論って着地はないですが、面白いなって思いますし、やはりAIを敵対視せずにどこまでも使い倒すものにきっとなるのかな、という気がしました」

最近気になっているAIサービス

「直近、気になっている生成AIサービスはあったりしますか?」

河野さん「色々ありますよ。例えばクリエイターキットなんかはクリエイティブの面で使えますし、まだ丸々任せるレベルではないんですが、ここまできるんだ!という面白さがあります。他には、カスタマーサポートという面ではyuma.aiなどはカスタマーサポートのチャットBotを自分で教育して作れます。全然人間と遜色ないです。

あとは、EC、特にアパレルや雑貨にはモデル写真を使うことが多いですが、モデル写真をAI生成したいというニーズはすごくあると思います。それが今だと、例えばstable-diffusionmidjourneyを使ってプロンプトで指示を出して作るとどうしても指定の姿かたちになってくれないし、指定した服を着てくれるわけでもないんですが、香港の大学の方が作ったControlNetという拡張機能を遣えばポージングを指定して指示出しができます。

それを使うと、AIに描いてもらう写真みたいな絵っていうものも例えば『こういう外見でこういうポーズをしていて、それに対してこの服をこういうふうに着せて』ということができるんです。

まだ実験段階なので実際にECで使えるレベルではないですが、ちょっと期待はしています」

「もしかしたら年末には、こういう雰囲気でこういうお店で商品はこういうものを置いて、商品写真はこれで…みたいなのを全部ストアがAIで構築してくれて、商品写真が生成されるみたいなことになっているかもしれないですね」

河野さん「前編でも言ったことですが、AIの導入にしろ何にしろ、結局は変化を続ける必要があるということに帰着するのかなと思います。変化を嫌わずに楽しむメンタリティーが大切だし、結局は商売の原点に立ち戻って、物を売るのも買うのも楽しいという原点を忘れてはいけないと思います」