フラクタ 河野さんに聞く~前編~ これまでのフラクタのお話と、ECのこれから

本日はなんと、コマースわいわいワイド始まって以来初のゲスト回。株式会社フラクタの代表取締役 CEO 河野 貴伸さんをお招きし、河野さんのこれまで辿ってきた道やShopifyとの関わり、そして生成AIとECの今後の可能性についてお伺いしてみました。

前編では河野さんご自身のパーソナルな部分や仕事への価値観、そしてShopifyの日本における最重要パートナーの一社として、Shopifyが今後どのように進化していくのか?という点を語っていただきます。

記事は要約版です。全編通してお聞きになる方は、ぜひPodcastを視聴してみてね!

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寂しがり屋な性格が起業のきっかけに!?

わいわいワイド(以下、わ)「河野さんはマーケティングやプロモーション、Shopifyやひいては生成AIまで、様々な分野で幅広い知識をお持ちです。そもそも昔からこういうことに興味があったのでしょうか?」

河野さん「僕のルーツはパソコン通信から始まったという感じですね。小学生時代にプログラミングを始めたのがきっかけで、パソコンやWebの世界にハマっていって、高校生の時に創業というか仕事を始めました」

「学生起業家ですね!」

河野さん「いや、そんなキラキラしたものではないです(笑)。僕、もともとすごく寂しがり屋なので一人で何かをするのが嫌いで、高校時代も軽音楽部で部長をやっていたんですけど、バンドで何かをやるとか、仲間で映画を作る、みたいな共同作業が好きだったんですね。それで、皆で何かをやる仕事で自分がリーダーをやるとしたら、会社を作るしかない!と思って設立しました」

「バンドや映画のアナロジーとしての会社経営なわけですね」

河野さん「はい、なので弊社の創業メンバーは高校時代のバンドのメンバーと部活の部長の3人です。事業としても関連性があって、当初は音楽事業がメインでした。例えば有名アーティストのバックバンドだったりスタジオミュージシャンだったり、ドラマのBGMを制作したり…。その副業的な感じで所属アーティストのウェブサイトやCDのジャケットをデザインしたりしていました。

ただ、なかなか音楽専業でやっていくのは難しくて、特に音楽配信サービスが出てきた時に、正直ビジネスとしてやっていくのは難しいという判断をせざるを得ませんでした。そこで、ウェブの方にシフトしていきました」

「これまであまり語られてこなかった、フラクタの前身を知れた気がします」

河野「そんなわけでウェブにシフトして、しばらくやっていくうちにお客さんも増えていきました。そんな中、2005年ころに原宿のとあるアパレルブランドの社長さんが、自社ECを作りたいという話を持ちかけてきてくれて。それをお手伝いしたのがきっかけで、その方が所有するマンションの一室をオフィスとして貸し出していただけることになり、原宿に移転しました。ちょうど世間的にEコマースが注目され始めた時期にも重なって、そこから一気にECサイト構築を支援する案件が増えましたね」

河野「当時は当然Shopifyなんてなくて、基本的にはスクラッチで作らざるを得なかったんですが、ほぼ自分一人で対応していたので、不具合は直さないといけないし、サーバーは止まるし…といった具合で、全然眠れない日々を過ごしていました。そんな時、創業メンバーの一人が僕に『このままだと自分たちは死ぬぞ』と言ってきたんです」

「このままやっていてもジリ貧だと」

河野さん「当時は今のようにShopifyやBASEやSTORESがあったわけでもないので、僕は比較的まだ自分でECを作ることに意味を感じていたんですけど、そういうものが全てサービスとして提供されるようになったらもう自分の仕事は必要なくなるな、とも感じていて。

じゃあどうすると考えた時に出てきたのが、ブランディングだったんです。

ECがある程度コモディティ化した時に、通常のリアル世界のブランディングの考え方をECやウェブ上にも応用すると、そこに需要があるのではないか、と、創業メンバーが提案してくれたのがきっかけで、ブランディング領域も支援するようになりました」

当初、Shopifyは日本では浸透しないと考えていた

「少し未来を想像したときに、作るという仕事がプラットフォームに置き換わったとしたら、そこに乗るものの差別化、認知のさせ方みたいなところにフォーカスすべきだと視点が強制的に切り替わった感じなんですかね」

河野さん「とはいえ時間はかかりました。僕はバリバリのエンジニアだったので、自分の作るものにすごいプライドがあったんですよ。俺の歌を聴け!的な、ミュージシャン的なやつがあった(笑)。ちょうどその頃に、あるお客さんからShopifyっていうのがすごいらしいよという話を聞いて、さらに怒りを倍増させていました(笑)。これが日本で流行るわけがない、と。なので、自分たちでShopifyを参考にしたSaaSのパッケージを作ってしばらく販売していたのですが、いよいよShopifyが正式に日本でリリースされる段になると、もう僕も負けを認めて、Shopifyさんの軍門に下ります…。となったわけです」

「そんな経緯があったとは!Shopifyの日本に3人しかいないエヴァンジェリストの1人が河野さんなわけですが、そこにはShopifyとの出会いが、またその後にあったわけですよね」

河野さん「そうですね。僕はライバル視したものを徹底的に調べるということを意識しているんですが、Shopifyのことも5~6年かけてずっと追ってたんですよ。先ほど日本で絶対に流行らないといった理由も調べる中でわかったことで、Shopifyは非常に北米的な文化なので、その文化を日本に押し付けられても日本のEC担当者や意思決定層は判断できないだろうと考えたんです。

では、日本でそれを判断できるようにするにはどうしたらいいかというと、コミュニティの存在だったり、牽引者が必要だと思ったんです。そういう伝道師的な存在がいればShopifyは伸びるだろうと確信していたので、僕がやりたいです、と手を挙げたのが、エヴァンジェリストとしての始まりです。2018~2019年頃、ちょうどShopifyが盛り上がる前夜の頃ですね」

インフラ管理に終始していたら、本来やるべきブランディングに集中できないのではないか?

「そのエネルギーがすごいです。改めてこのShopifyがどういう意味を持つのか、なぜShopifyなのか、について詳しく聞かせてください」

河野さん「やはり自分たちでECを構築する中で、システムを自分たちで管理することの無謀さをすごく感じていたのが大きかったと思います。特に身に染みていたのがインフラ管理の大変さで、お客さんが増えれば増えるほど突発的なアクセスが発生するし、サーバーも落ちやすくなるし、コストも跳ね上がるし、その責任を全部常に背負わなきゃいけないのが辛い。またセキュリティの面や、継続的な発展性の重みを身をもって感じていました。

しかも、そこに終始していると自分たちが本来やるべきブランディングなどに全然集中できないと思ったんです。だからShopifyに切り替えたというのが一つ目の理由です。

二つ目は、創業当時からずっと思っていることなんですが、今現在すべてのウェブって、すべてリアルにある世界をデジタル上に再現して人間が使っているんですよ。例えばデスクトップという概念がありますが、あれは机の上を模した概念で、その上にフォルダーなんかがあって、要はリアルな実際の机の上を再現しているんですよね。それは人間が分かりやすいからそうしているのであって、本来はそこにCPUを使う意味はない。

ECも同じだと思っていて、なんとなくお店で買うことを再現するのにものすごくエネルギーやリソースを使っているし、人々が苦悩している部分でもある。それを簡易化できれば、もっと本来人間が考えるべき所、商売そのものに専念できるんじゃないかなと思うのです。この分野は今まさに過渡期で、これからもっと発展の余地があると思っています」

ECの現状はリアル世界のシミュレーションの域を超えていない

「確かに、店構えがあって、ドアをくぐっていらっしゃいませ、くるっと回ってレジまで持っていくというのを、別にオンラインで模倣する必要がそもそもあるのかという話もありますよね」

河野さん「そうなんです。商売自体のやり方ってまだいくらでも可能性があるんだけど、意外とみんなが考えるリアルの世界の普通のものをシミュレーションする枠を超えていない。だからこそ、そこに発展の余地という面白さがあると思います。

なので、プラットフォームやパッケージに時間やコストや労力をかけるのってどうなんだろうと思うようになったし、いかにストレスなく運用できて安心できるプラットフォームに乗り換えるべきか考えた時に、Shopifyが選択肢に入ってくるんですよね」

担当者がどう作りたいかではなく、ユーザーに何を体験させたいか

「そういう意味でいくと、ブランディングをすればするほど辿り着いた答えとしてそもそもECで売るか、お店で売るかってあまり関係がなくて、ユーザーがどういうふうにどんな体験で買いたいのかに寄り添うことに尽きる気がしますね」

河野さん「そう、なんかもう哲学の域に入るんですけど(笑)、お客さんは体験を求めているのか、それとも検索して手っ取り早く一気にストレスなく買いたいのか、もう本当に求めるものは千差万別なんです。だから、ECもリアルも全部をフラットに置いた時に、お客さんに対してそれぞれでどういう体験を実現するべきかを考える必要がある。

例えば、ECでよくあるのが、デザインにこだわりたいという話。でも実際、お客さんはそれを求めているのか?みたいなことを、皆さん調査しているわけではないんですよね。広告の世界だと皆さん当たり前のように検証をされていると思うんですが、ECのデザインは基本的に検証されない。そんな世界だから、自分がやりたいことじゃなく、お客さんに求められていることをやったらすごいと思うんですよ。

なので、本当にブランディングを考えたうえでECを作る際に重要になるのが、常にその仮説と検証を繰り返せる状況にしなければいけないということで、瞬間を切り取って最高に美しいものではなく、ずっと継続的に変化し続けられるような生き物を作っていくようなデザインをしなければいけないというのは、一つの気づきではあったんです」

提供価値は何なのか、自社の哲学を突き詰める

「環境や世の中は変わるから、同じものを作っていても受け取り方が変わると。そうなると、我々はそうした環境下でこれをやるんだとか、この価値を世の中に提供するんだとか、そういったものを提示するためのプロダクト側とかメーカー側の哲学みたいなものがないと、難しいということなのでしょうか」

河野さん「そうですね。僕らがクライアントさんのブランディングに関わる中でよく言うのが、「自分たちで考えてほしい」ということなんです。アイデアを出したりはしますが、大切なのはクライアントさんが自分たちでブランディングできるようになることだと思っています」

「売上の伸びを長期継続させるためには、筋トレでいう基礎代謝を上げて、身体を動きやすくして、何かあったときに瞬発力が出るようになったり、持続力がつくようにしたりする必要がある。そういった体質改善をフラクタさんではお手伝いしている、というふうに捉えました。ありがとうございます」

後編では、ECにおいても無視できない存在になっている生成AIについてお伺いしたいと思います!後編もお楽しみに!