値決めについて話そう

物価高騰が著しい昨今。何を買うにも「高くなったなあ…」とつぶやいてしまうくらい、何もかも値上がりしていますよね。

今日はそもそも「値段はどうやって決まっているか」についてゆるく考えてみたいと思います。

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値段の決め方4パターン

そもそも現在物価が上がっているのは、シンプルに言うと仕入れ値が高騰しているから。これは、国際的な原材料の高騰に加え、日本では輸入コストの増加、労働人口の減少と労働時間の圧縮など、売上原価だけでなく、光熱費・運搬費、人件費など、按分した原価や販管費から何からすべてが上がっていることが原因です。

なので今回はそこを深堀ったり検証したりするのではなく、それらが加味されたうえでどのように物の売値は決められているのかを考えていきたいのですが、一般的に値決めは以下の4つのどれか、もしくは複合的に決められることが多いとされています。

コストベース

読んで字のごとくですが、コストから利益率を戻して価格を決めるやり方を「コストベース」の値決めと言います。

コストベースは比較的かんたんに設計でき、計画どおり売上が立てば利益を確保しやすいものの、相場や競合他社の価格を考慮していないため、実際にはほかの方法と組み合わせることになります。

競合ベース

同じカテゴリの商品は、ユーザー側も価格を比較して決めることが多いですよね。例えば味噌が欲しくてスーパーで味噌の棚を見るとき、陳列されている様々な味噌の値段を比較しながら決めていると思います。

値決めする側もそこは考慮していて、市場における競合他社の価格設定を基準に自社製品の価格を決定する方法を「競合ベース」のプライシングといいます。

同業界の類似製品やサービスに基づいて自社の価格を調整していくのですが、たとえば価格を競合よりも低く設定することで市場シェアを拡大する戦略や、逆に高品質や独自性を強調して価格を高めに設定する戦略などがあります。

コストベースだけと比較すると、相場に合わせやすく市場からの受け入れ状況を考慮できますし、市場シェアをとれば仕入れを増やせるのでボリュームディスカウントが効くため原価率を下げることも可能です。

一方で、自社製品のオリジナリティやブランド価値よりも対競合という視点になりすぎてしまう可能性も。市場にはシェアの大きなプライスリーダーがいることが多いので、下位の企業はリーダーの価格に引っ張られやすいという傾向もあります。

価値ベース

そこで次の視点が必要になります。コストや競合を考慮しつつも、やはり見ないといけないのは「顧客」。

顧客が製品やサービスに対してどういう価値を感じているのか、満足しているのか、を価格設定の基準とするアプローチを「価値ベース」のプライシングといいます。

価値ベースでは市場調査や顧客フィードバックを通じて顧客の価値基準を把握したり、あるいは価格を通じて価値を表現することで、価値と利益を拡大するという狙いになります。ラグジュアリーブランドなんかはこれですね。

ニーズベース

最後は「ニーズベース」。需要が多いときは価格も高くなり、需要が少ないときは安くしてでも在庫を減らすという、需給バランスによって価格を変動させるやり方です。主にサービス業で使われる動的な価格変更は「ダイナミックプライシング」と呼ばれ、ホテルとかが繁忙期とオフシーズンで部屋の値段を変えたりするのがこれにあたります。

繁閑差(ホテル、航空券、駐車料金など)

時間差(ホテルや航空券の早割、高速料金の深夜早朝割)

場所や席の差(駅近の物件のほうが家賃が高い、ビジネスクラスとファーストクラスなど)

ダイナミックプライシングは、最近ではスポーツなどの興行でも取り入れられています。

値上げはコストベース

昨今の製品価格の値上がりは、すでに各社が決めている製品価格に対して諸々のコストが上昇したがゆえに利益がとれなくなってきたので、利益確保のために価格に転嫁している、つまりコストベースから逆算したプライシングだといえます(同業界でタイミングが似てくるのは競合ベースだと考えられる)。

ホテルなどが高いのは、人件費や光熱費などの高騰をカバーするコストベース戦略に加え、円安で相対的に割安感のある日本にインバウンド需要が高まったことで、需要が供給を上回ったことによるニーズベースの価格上昇だと言え、繁閑差、時間差、場所の差などによっても変わってきます。

電気料金なども上がっていますが、インフラやプラットフォームはレバレッジがすごいので、料率で上げるとものすごく利益が出ます。不景気と言いつつ電力会社各社が過去最高決算をたたき出しているのはこれですね。

値決めは経営

ちなみに値決めといえば故:稲盛和夫さんの「値決めは経営」という名言があります。以下は、京セラのホームページに掲載されている稲盛さんの言葉。

経営の死命を制するのは値決めです。値決めにあたっては、利幅を少なくして大量に売るのか、それとも少量であっても利幅を多く取るのか、その価格設定は無段階でいくらでもあると言えます。

どれほどの利幅を取ったときに、どれだけの量が売れるのか、またどれだけの利益が出るのかということを予測するのは非常に難しいことですが、自分の製品の価値を正確に認識した上で、量と利幅との積が極大値になる一点を求めることです。その点はまた、お客様にとっても京セラにとっても、共にハッピーである値でなければなりません。

この一点を求めて値決めは熟慮を重ねて行われなければならないのです。

https://www.kyocera.co.jp/inamori/about/thinker/philosophy/words63.html

この短い文章に、先ほど4パターンに分類した値決めのすべてが詰まっていますね。さすが経営の神様。。

値決めの戦略

先ほどの引用の以下の部分は、企業の経営スタイルや哲学が出る部分だと思います。

どれほどの利幅を取ったときに、どれだけの量が売れるのか、またどれだけの利益が出るのかということを予測するのは非常に難しいことですが、自分の製品の価値を正確に認識した上で、量と利幅との積が極大値になる一点を求めることです。

実際、稲盛さんはこうも言っています。

こうして熟慮を重ねて決めた価格の中で、最大の利益を生み出す経営努力が必要となります。その際には、材料費や人件費などの諸経費がいくらかかるといった、固定概念や常識は一切捨て去るべきです。仕様や品質など、与えられた要件をすべて満たす範囲で、製品を最も低いコストで製造する努力を、徹底して行うことが不可欠です。

値決めは、経営者の仕事であり、経営者の人格がそのまま現れるのです。

値決めは経営者の人格や姿勢がそのまま表れやすい部分ということ。

一方で、値決めは企業経営の重点項目である以上、さまざまな研究があり、アプローチも模索されています。ここではその一部を紹介します。

PSM分析

PSM分析は、「Price Sensitivity Meter」の頭文字で、「価格感度」を分析するためのフレームワーク。その製品・サービスが市場において許容される価格帯を推測するために使われます。

画像引用元:https://www.pkmarketing.jp/articles/word-pricesensitivitymeter/

具体的には、下記のようなアンケートの結果から顧客の価格感度に合わせて価格の参考とする分析を行います。

  • その商品は、いくらから「高い」と感じるか
  • その商品は、いくらから「安い」と感じるか
  • その商品は、いくらから「高すぎて購入できない」と感じるか
  • その商品は、いくらから「安すぎて品質に問題がありそうだ」と感じるか

上記の質問内容をもとに、4本の累計曲線を引き、それぞれの4つの交点を「許容される価格帯」として設定します。

これによって、高価格帯商品の価格上限の設定や、割引キャンペーン時の値下げの下限値を導きだせたりします。

価格弾力性分析

価格弾力性分析とは、商品価格が変動した際に、どれほど需要や供給に変化が生じるのかを分析する手法です。先ほどのPSMが理論値の算出だったとすると、価格弾力性は、変化に着目した指標。

一般的に、お米や野菜といった生活必需品は価格弾力性が小さい傾向にあり、ブランド品や自動車といった高価格帯のものは価格弾力性が大きい傾向にあるといわれています。

価格弾力性は、以下の計算式で求めることが可能。

価格弾力性 = 需要/供給の変化率 ÷ 価格の変化率

数値が1より小さければ小さいほど「価格弾力性が小さい」と判断でき、その逆であれば「価格弾力性が大きい」といえます。

画像引用元:https://note.com/koichinakagawa/n/n912980fc9a64

コンジョイント分析

コンジョイント分析は、製品・サービスを構成する各要素が、顧客の購買決定にどれだけの影響を与えているのかを知るための手法。

例えば、アパレル企業が新しいジーンズを企画しているとして、「流行のシルエット」「生地の質」「細部のデザイン」「環境への配慮」といった幾つかの項目を洗い出して、各項目のランダムな組み合わせを質問者へ提示し、どれくらいの価格が支払えるのかを聞き出すような方法。

最終的に、各要素の購買主要因(KBF)を数値化して価格決定の根拠にします。

AIの役割

特にアンケートを使った分析は、リサーチ分野のインフラが整ってきたことで、以前より早く大量にデータを集めることができるようになりました。

大量の構造化データはAIと相性がよいので、現在ではダイナミックプライシングの策定にAIが使われるなど、自動化かつデータドリブンな世界になってきています。世間でAIというと生成AIが話題ですが、どのようなモデルを使うのか次第ではあるものの、価格弾力性のような計算や分析はデータがそろえばAIのほうが得意そうかなと思います。

もちろんAIじゃなくても済む程度のデータであれば不要ですが、POSやECの購買データやアクセスログ、インタビューやSNSなどの定性情報なども含めると、以前と比べて参照できるデータは膨大になり、大規模マーチャントのほうが有利な状況ではあります。

値決めする際に、まだまだエイヤで決めているところもあるとは思いますが、大量流通している製品やファンに対してチケットの限定性が高い場合などは、AIとの相性はよさそうですね。

今回の話において何か結論めいたものがあるわけではないけれど、こうやって雑に挙げただけでもたくさんの決め方があるし、正解は結果でしか分かりません。「値決めは経営」であるといわれるのもわかる気がしますね。