EC事業者も他人事ではいられない…配送料が激しく値上がりしているワケとは

昨今「物流2024年問題」なんて取沙汰されている配送料についてのお話です。配送料…高いですよね。これからさらなる値上げ地獄待ったなしな状況で、シャレにならんと戦々恐々とされているEC事業者の方も多いのではないでしょうか。

配送料…物流や環境要因まで踏み込むと奥深すぎるため、この場で物流シロウトの我々が明確な解決策の提示はできないのですが、今回はなんでこんなに配送料が上がるのか?の一端を紐解いていきたいと思います。

▼AM放送のノリで話しています。ポッドキャストはこちら▼


目次

  1. 配送料がメチャ上がっている件
  2. 供給側の事情から見た値上げ
  3. 配送料高騰の要因を分解してみよう
  4. 興味深い事例をひとつ…

配送料がメチャ上がっている件

4月上旬のとある日、コマースわいわいワイドの男性パーソナリティである岡田の家にヤマト運輸さんが訪ねてきました。話を聞いてみると、運賃改定の見積もりへのサインが欲しいとのこと。

岡田は自分でもEコマースを運営していて、配送にヤマトさんを利用しているため、法人契約を交わしています。法人契約は出荷量などで単価が異なるため、個人と違って一律同額ではなく個別契約を交わす必要があるそう。その値上がり具合がかなりシビアでした…。これは個人配送も同様です。

では、個人配送だとどのくらい値上がりするのでしょうか。

画像引用元:https://netshop.impress.co.jp/node/10672

上の表を見ると、関東→関東の場合は宅急便コンパクトが+40円で割合で言うと6.5%の値上げですが、200サイズなどの大型になると、+880円で30.9%の大幅値上げです。

この傾向は距離が伸びるほど顕著で、関東→関西の場合、コンパクトは+50円(7.5%)ですが、200サイズでは+1,440円(48.8%)の値上げであり、これが経営に影響しないわけがありませんね。
※佐川急便の料金テーブルはまた少し異なりますが、今回は企業比較モノではないため、例をヤマト運輸に絞ります。

供給側の事情から見た値上げ

供給側はどのような意図で今回の値上げに踏み切っているのでしょうか。
ヤマト運輸のIRを見ると、今回の値上げのインパクトは10%程度のようです。

ヤマトグループIR説明会資料<2023年3月期第3四半期> P3より抜粋

これを値上げ率に照らし合わせてみると、小口は6~7%の上昇で、大口は30~50%なのに対して、インパクトが10%ということは、売上に対する割合に関しても小口取引が多いということになります。

これは国土交通省のデータでも示されていて、『令和2年度 宅急便(トラック)取扱個数』のグラフによれば、2020(令和2)年度の宅配便取扱個数は48億3,647万個で、前年の5億1,298万個より11.9%の増加となっています。翌2021年もヤマトのIRを見る限りでは引き続き増加傾向なので、小口の宅配便はこの10年で明らかに急増しており、コロナによるECの一般化がそれに拍車をかけているとみて取れます。

画像引用元:『令和2年度 宅急便(トラック)取扱個数

加えて、フルカイテン社が先の国交省のレポートから算出したグラフを見ると、トラックの積載率は年々下がっていることがわかります。

画像引用元:FULL KAITEN 記事「小売の採算を悪化させる宅配便「2024年問題」/物流コスト上昇でECは利益体質の強化が急務に

これは要するに、荷台の余剰スペースがだんだん増えているということ。ECの一般化によって大型輸送ではなく小口輸送が増え、かつ配送が多頻度化することでいわゆる「空気を運んでいる」と揶揄される状態になっているのです。

輸送効率が下がれば、物流に関わる産業の労働時間が有効に活用されない状態になり、人件費はもちろんのこと、ガソリン等の輸送費をたくさん使い、余分な二酸化炭素をより多く排出してしまう事態になります。


配送料高騰の要因を分解してみよう

配送料の値上げは今に始まったことではなく、年々高騰しています。では、高騰はどのようなメカニズムで起こっているのでしょうか。

物流に関わるコストを分類すると、以下に分かれます。

  1. 輸送費(全体の約50~60%)
  2. 保管費(メーカーや卸は20%、小売で3~4%)
  3. その他(荷役費、管理費など20~30%)

この中でどの業種でも最も大きいのは輸送費です。

次に、その輸送費を分類してみると、以下に分けられます。

  1. 運賃
  2. 車両費
  3. 燃料費
  4. 交通費(高速料金費)
  5. 駐車料金/駐車場費用
  6. 人件費

中でも近年大幅に高騰しているのが燃料費であり、連動するように人件費、外注の場合は運賃も上がり続けています。

燃料費の大部分であるガソリンは、元をたどると石油(原油)です。原油はあらゆる生産の源であり、ガソリンだけでなくLPガスや灯油にもなるため、それらを経由して行われるすべての生産活動のコストが連動して上昇します。また、石炭や天然ガスの価格が高騰したため、代替としての原油の需要が増えたことも価格を押し上げる要因になっています。

昨今の脱炭素の動きの加速も背景となり、世界的な再生エネルギーへのシフトから、供給サイドは化石燃料の新規開発を抑制しているという点もポイントです。
(なお、電気を生む火力発電はこれらの原油・天然ガス等に頼っているため、脱炭素とはいったい…という気はします)

画像引用元:三井住友DSアセットマネジメント 記事「原油価格が7年ぶりの高値に上昇 供給制約によるエネルギー価格上昇が鮮明に

運賃人件費は、運送業に関わる人的リソースを外部と内部のどちらで調達するかの違いです(内部なら人件費、外部なら運賃)。

国内の貨物輸送量はメーカーが生産拠点を海外に移す傾向の高まりとともに年々緩やかな減少傾向にあるのに対し、宅配便の取扱個数は前述の通り増加し続けており、これが積載率の低下とラストワンマイルの増加につながっています。
ラストワンマイルを自社ですべて賄うのが厳しいので外部委託する割合が増えていますが、外部委託もコスト構造は結局同じなので値上げが必要になります(特に個人利用はテーブル価格が決まっているので、利益は基本的に減っていく構造)。

また、拘束時間が構造的に長くなってしまうことから、遅れていたドライバーの時間外労働の上限設定(年960時間/月平均80時間)も、2024年4月より必須となります。運送事業者が運送効率の悪さをドライバーの長時間労働によってカバーできなくなることが分かっているため、もう一段階値上げが行われるのではないかと思われます。

人材が確保しにくいのに加え、ラストワンマイルは自動化で置き換えにくいので、アプリでの通知や宅配ボックス支援、コンビニ受け取りなどさまざまな施策で運送効率を少しでも上げようと、宅配事業者は努力をしているわけです。


興味深い事例をひとつ…

ここまでで、配送料がなぜ上がるのか?を因数分解してきましたが、「だからこうすべきだ!」「今後はこうなるに違いない」という結論を出すことは残念ながらできません。変数が多く、関わっている人間が多く、業種や企業ごとに事情が違いすぎるため、マクロでざっくりの傾向は出せても、銀の弾丸はないのかなと思います。

ただ、フランスで面白い事例があるので、一つ紹介しておきます(日本が真似できるとは思いませんが…)。以下は、帝京大学が運営する「design stories」の記事の引用です。要は、本をオンライン注文するときに送料をかけることで町場の本屋さんでの購買を促進させるための法律が施行されたよという話です。

4月6日に発表されたのは、「35ユーロ未満の書籍をオンラインで注文する場合、送料を最低3ユーロ(約420円)に設定する」というもの。
これによりアマゾンなどのネット通販会社は、“配送無料”という措置が今後取れなくなるという。

(中略)

オンライン書店や電子書籍の台頭により、世界では「町の本屋さん」がどんどん減っている。フランスでもそうした傾向はあって、近年ではアマゾンとフナック(Fnac、フランス最大のブックチェーン)の二つが、オンライン書籍販売のツートップであった。

(中略)

文化的産物としての「町の本屋さん」を守ることは、フランス政府の優先事項でもあった。事実、現在のフランスには約3,500の独立系書店が存在しており、本全体の売り上げでは「2冊に1冊」の割合で、本屋から直接販売が行われているという。オンラインショッピングが主流の現代にあって、フランスのこうした状況は世界でもトップクラスなのだそうだ。

新送料が設定されるにあたっては、オンライン小売業者からの反発がもちろんあった。なお今回、仏アマゾン側は「インフレを助長させる」として、3ユーロではなく1.49ユーロの送料にすることを要望していた。一方の書店側はさらに高い4.5ユーロをネット業者に要求。よってフランス政府は両者の中間を取ったということになる。

https://www.designstoriesinc.com/europe/book-store-2/

これをすべて肯定的に捉えるのは躊躇しますが(地方で書店に恵まれない地域は少しアンフェアではないか?民間に対して介入しすぎではないか?等)、一方で、この法律のおかげで店舗とECのバランスが取れ、ひいては物流にも良い影響を与えるかもしれません。

色々なアプローチがあって面白いですが、やはりインフレ傾向は今後も変わらないであろう以上、企業努力と法整備のバランスが大事そうですね。