川邉さんに聞く サイト内検索の歴史、これからの姿

皆さんこんにちは。今回は、前回に引き続きサイト内検索がテーマです。

前回は「サイト内検索は大事だけど、実装するのはなぜ難しいんだろう?」というテーマでしたが、今回はサイト内検索システムの中の人にお話を聞いてみよう!という趣旨でお届けします。

前回の内容はこちら

今回ゲストとしてお招きした川邉雄司さんは、日本のサイト内検索システムの雄であるビジネスサーチテクノロジ社の社長をお務めになられ、いわば日本のサイト内検索の歴史を間近で感じてこられた方です。

そんな川邉さんに、今回は検索エンジンのこれまでの流れと、今後の発展の可能性、また現在我々運用者が気を付けるべきことをお伺いしました!

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検索エンジン群雄割拠時代にBSTにジョイン

わいわいワイド(以下、わ)「今回は、ずばりサイト内検索のお話です。ややニッチですが、とても大事なテーマだと考えています」

川邉さん「検索っていうと、皆さんGoogleとかを思い浮かべますが、それらのいわゆるウェブサーチではなく、サイト内検索はなかなか日の目を浴びにくい…けれど重要なテーマですので、お話できてうれしいです」

「では簡単に自己紹介をお願いします!」

川邉さん「はい。僕自身のキャリアとしては、最初は半導体の商社に新卒入社し、そこで3年ほどフィールドセールスを行っていました。その後色々あってまさかのNSC(吉本興業の養成所)に入り、友人とお笑いコンビを結成しました。

ただあまり芽が出ず、コンビは解散。どうしようかなと思っていたタイミングで商社時代の先輩に声をかけられて、2004年に起業しました。ビジネスの内容としては、当時平成の大合併で市町村合併が頻発していたので、ホームページをリニューアルする自治体が増えており、それを管理するためのシステムを売っていました。その際に知り合った方がビジネスサーチテクノロジ社(以下、BST)にいたことが、BSTとの最初の接点ですね」

わ「かなりユニークな経歴を歩んでこられているんですね」

川邉さん「BSTは当初出来たばかりで営業マンが足りないというお話を受けて、最初は外注営業として週に2日ほど参加して、残りは自分の会社、みたいな感じでした。その後2007年頃には完全にBSTにジョインして本格的にサイト内検索ビジネスに携わることになりました」

「2007年当時はサイト内検索市場はどんな感じだったのでしょうか?」

川邉さん「まだSaaSどころかASPもほとんどなくて、あるのはパッケージ型でした。しかも、サイト内検索に投資する会社はほぼないという市場環境でしたね。当時『Namazu』という日本語全文検索エンジンがあって、それを導入している大企業がまだまだありました。

Namazuは、検索結果に「Namazu」って出ちゃうんですよね。それが平気でコーポレートサイトなんかに使われていた」

画像引用元:https://xtech.nikkei.com/it/article/COLUMN/20091218/342379/

川邉さん「あとは、エンタープライズでお金を投資できる大企業は『FAST』という検索エンジンを導入していました(その後Microsoftが買収)。中堅は何も入れていなかったり、製品データベースのままというのが当時のECの状況でした。そんな中、BSTはというと…もともとDigital Equipment Corporation社(以下、DEC)という会社から来た人たちが多かったんですね」

「と言いますと?」

川邉さん「Googleよりも前にWebサーチを開発していた、ロボット型のWebサーチの先駆けが『AltaVista』という検索サービスで、それを作っていたのがDECです。AltaVistaは日本でも使われていたんですが、あまり日本語検索が得意ではなくて。当時の日本DECのR&D部門は、ローカライズをするか日本語検索エンジンを独自に作るかで迷っていました」

画像引用元:https://ascii.jp/elem/000/000/804/804113/

結局、ローカライズはつまらない、自分たちで作りたいということで『MITAKE Search』という検索エンジンを作りました。その後、DECがCOMPAQ社に買収されることになり、企業文化も変わる中で、当時の日本DECの優秀なエンジニアたちは色々な会社に移っていきました。その中の一つがBSTで、新卒DEC入社のような優秀なエンジニアがコアメンバーとしてジョインしたのです」

「ゼロから検索エンジンを作るなんて途方もないと思っていましたが、DECで培ったベースがあったということなんですね」

川邉さん「そうですね。それで私たち営業サイドは、ビッグクライアントはファーストが押さえているけれど、我々も何とか食い込もうという意気込みでした。他にも、パナソニックが作った『Pana Search』や、『ジャストシステム』など、色々な検索エンジンが群雄割拠している面白い時代でした」

ECの検索はデータベースを使っていた時代

川邉さん「最初に入った頃は、いわゆるライセンスビジネスで検索エンジンを売っていました。ちょうどブログが流行っていて、企業でもイントラブログによる企業内コミュニケーションが必要だということでやり始める企業が多かったんですが、データ量が多いと検索が重くなったり、検索精度が悪いとヒットしなかったりといった問題がありました。そこでMovableType(MT)専用の検索エンジンを作ったら売れるんじゃないかということで、頑張ってましたね」

「ECが盛り上がってきたのも、その頃ですかね」

川邉さん「そうですね。当時のサイト内検索というのは、例えばメーカーのサイトとかだと品番とカタログがきちんと全てデータベース化されているからうまくヒットするんですが、ECの場合、オープンな環境で使う前提ですし、検索内容が曖昧だったり人によって全然違ったりするからより精度が必要です。特にモールは検索が命と言っていいくらいなので、そこに対する投資も通常の独立系ECの比ではない。

ECの場合、ライセンスビジネスというよりはクラウド型というか、サブスク型の方が相性が良いのではないかということで、そのトレンドもうまく取り入れたいと考えていました」

「実際にそういったお仕事はありましたか?」

川邉さん「その頃の状況では、既に何かのサイト内検索がサイト内に入っている場合、大体データベースの検索をそのまま使っていて、どうしても重いというご相談をいただくことが多かったです。

印象深いのは、ある大手書店さんのサイトで、書籍数が600万冊くらいあって、もうECパッケージのデータベースの検索では重すぎて効かなくなっていた。その場合は、ソフトウェア自体のカスタマイズはしませんが、インデックスの作り方がとても重要で、そこはエンジニアが入って一緒に設計したりしていましたね」

BSTは、現在はGEINEE SEARCHとなっている(画像引用元:https://www.bsearchtech.com/

サイト内検索はコストか?発想の転換が起こった好事例

「ちなみに、ECサイト内にサイト内検索を導入するというのは、考え方としてはコストになると思います。なのでECサイトの機能の一つとして外部の仕組みを入れるという感じになるため、レベル2を生み出す、そこからさらに良くする、という意識はあまり働かないのではないかと思っていて」

川邉さん「それで言うとこれも印象的なケースがあって、カタログ通販の会社の話なのですが、当時Webカタログはかなりアクセスがありました。アクセスが増えれば増えるほど検索クエリ数も増えるので、データベースのCPUの負荷がかなりかかってしまっていました。

そこでカタログ通販会社の経営判断として、CPUを増設するというのがまず考えることだと思うのですが、それにはかなりの投資が必要です。そこで発想を転換して、検索クエリのせいで負荷がかかってしまうのであれば、検索だけ外出しすれば軽くなるのでは?と考えられたわけです。そのコンペでBSTが選ばれまして、導入いただいたらデータベースの負荷が25%減りました。するとサイト全体が軽くなるので、サイトのUXがかなり良くなり経済効果が出たという事例がありました」

わ「サイト負荷が軽くなることでUXが向上し、さらに検索精度が向上することで購入に繋がる。そうすると、初期コストはペイできちゃうという発想ですね」

Googleアナリティクスの登場がサイト内検索の立ち位置を変えた

川邉さん「その後、2010年前後になって、ECや自社サイトでユーザー体験を良くして行って、売上を高めていくためにデータをしっかり活用しよう、という気運が高まった気がします。その要因の一つがGoogleアナリティクス等のアクセス解析ツールを使ったデータ分析が浸透し始めた事だと思います。

その波及効果でECが盛り上がってきて、かつSaaS型サービスも出てきて、ビジネスチャンスが広がりました。プラス、データベースやミドルウェア的な位置づけだった検索エンジンが、だんだんデータと連携したものにポジションが変わってきているなと感じていました」

「やはりきちんとデータが可視化されたので、その価値に気づきやすくなったということなんでしょうか」

ジェネレーティブAIの登場で、サイト内検索はまた一つ次のステージへ

「ちなみに、今お話いただいた2010年前後から現代までの間に十数年立っていて、その間にECの市場規模は拡大していますし、コロナ禍を経てもうECが当たり前の存在になっていますよね。サイト内検索も当たり前にデフォルトで存在している状態になっていますよね。今後のサイト内検索はどうなると思われますか?」

川邉さん「AIの登場でまた変わる部分はあると思いますね。私が在籍していた頃は、サイト内検索って、0件ヒットのキーワードとかには辞書登録のようなメンテナンスをちょっと入れる必要があったのですが、AIの登場でそのあたりの自動化はかなり進むと思います。それによって検索精度のクオリティは上がるでしょうね」

「データベースとAIの相性はすごく良いはずですもんね。これまでGoogleが検索では飛びぬけていましたが、AIの登場で、学習する内容が決まっていればかなり高い精度をどのプレイヤーでも出せるかもしれないですね」

川邉さん「外部環境の変化や技術トレンドの革新はどんどん起こってますので、そこをうまくキャッチアップして、取り残されないようにすることが大事かなと思います」

サイト内検索をどう活用すれば良いのか

「今現在、私たちがサイト内検索をどう活用するのが良いと思われますか」

川邉さん「まず、検索の生ログをぜひ見てもらいたいですね。よくある話で、Googleの検索ログを見たら世の中の人たちの脳みその中身がわかっちゃう、みたいな話があると思うんですけど、もちろんGoogleの検索ログを我々が見ることはできません。だけど、自社のサイトオーナーであれば、サイト内検索のログは自分たちのものなので見られますよね。そこには気付きがめちゃくちゃあると思いますよ。

検索を入れる目的はUX改善ももちろんそうなのですが、その裏側のデータにこそ、ユーザーの本音が隠されていると思う。一つ一つのクエリにユーザーの欲とか疑問がいっぱい詰まっていて、そこから次の施策に繋がることもあると思うし「どういう気持ちでこのキーワードを入力したんだろう?」と考えることでその方の経験を追体験すると、本質的な改善に繋がると思います」

「定量的なレポーティングも大事だけど、定性的なクエリから見えるインサイトも非常に大事。鳥の目と森の目をバランスよく行ったり来たりすることが大事ということですね」

今回はサイト内検索の歴史とこれからのお話を中心に語っていただきました。次回は、サイト内検索のビジネスへの活用方法のTIPSをより詳しく教えていただきます。お楽しみに!