皆さんは、クラフト系ECモール(ハンドメイドマーケットプレイス)でお買い物をされたことはありますか?
パーソナリティのオカダは、新設オフィスの本棚に「リンゴ箱」を使いたかったのですが、普通の雑貨屋や家具屋にはなかなか売っておらず、専門店もサイズ感が合わない…と放浪の末、Creemaで理想のリンゴ箱の作り手さんに辿り着いたそう。
同じくパーソナリティのイタニも、結婚式の席札やプロフィールブックをなるべく安くカスタマイズしたい…!と探し回ったあげく、Creemaで見つけたクリエイターさんにお願いすることにしました。
こんな感じで、クラフト系ECちょいちょい使ってるよね~という会話がきっかけとなり、今回はクリエイターが揃うモール、クラフト系ECモールについて考えてみました。
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クラフト系ECモールって?
一般にハンドメイドマーケットプレイスと呼ばれており、日本では「Creema」や「minne」が有名です。
このジャンルの先駆けは2010年開始のCreemaですが、2011年頃から類似サービスが増加。minneはGMOペバポが2012年に開始して急成長し、tetote(2011年創業)を2015年に買収、その後吸収するなどして拡大しています。
流通総額
- Creema:168億円(23/2月期)
- minne:150億円(22/12月期)
どちらも年間の流通総額は150億円ほどで、規模が近いですね。
メルカリなどのフリマアプリを除くと、セラーに素人が少なくクリエイターや小規模法人が揃っているハンドメイドマーケットプレイスではこの2社がツートップという感じです。
どちらも近年の巣ごもり消費、アウトドアブーム、エシカル・サスティナブル消費、コロナによるECの急騰などで多様なジャンルで需要が高まっており、ECの成長が一服したコロナ明け以降も成長を維持しているように見えます。
どちらのサービスも深堀したいところですが、今回はオカダもイタニも使ったことのあるCreemaを中心に取り上げてみます。
ミッションに「愛ある事業」を掲げるCreema
Creemaは2009年創業で、2020年に東証マザーズ(現東証グロース)に上場。創業時は「多世代型コミュニティマンション」というコンセプトだったが早期に撤退し、2010年にハンドメイドマーケットプレイスである現在のCreemaを開始しています。
ハンドメイド系イベント、クラフトキャラバンや常設店舗、野外フェスなど、とにかくアプリ以外にもいろいろと活発に動いているのも特徴です。
ミッションに「愛のある事業」を掲げており、コーポレートステートメントが「まるくて大きな時代をつくろう」というもの。株式市場という資本主義ど真ん中でこういう語彙を掲げるのは勇気がいると思うので、個人的には好意的な印象を持っています。
事業や会社がどんなに大きくなっても、本質だけは見失うことがないよう、この志を胸に取り組んでまいります。
引用元:社長メッセージ(https://www.creema.co.jp/company/message/index.html)
というメッセージはこれから未来に起こるだろうジレンマ(成長と文化の二律背反)へあらかじめ釘を刺しにいっているようで、勝手ながら期待しています。
ビジネスモデルは下図のとおり、CreemaのCtoCマーケットプレイスと、内外の広告がメインのプラットフォームサービス、その他イベント・サービスに分けられています。
マーケットプレイスが全体の約7割を占める主要サービスで、プラットフォームサービスも(特に内部広告は)マーケットプレイスのサイズにある程度相関するため、既存事業の規模の拡張にはCreemaの健全な規模拡大が至上命題。
外部広告は自治体連動などが多いとのことで、これはオンラインだけでなくイベント・サービスなども関連しているのではないでしょうか。
流通総額・売上ともに伸びており、アプリ+広告なので粗利率も75〜80%と高く、販管費の中では比較的広告宣伝費の割合が多いのではないかと思われます。
この伸びはどのようなかたちで作られているのでしょうか?ということで、まずは手数料を比較してみました。
主要どころを比較してみましたが、Creemaは商品金額の11%ということで、他が売上(送料等含)に対して料率がかかるのに比べると良心的ではないでしょうか。
送料に関しては、以前の回で話したように直近値上げが激しく、これから上がることはあれど下がることはないと思われるため、手数料の純額はどんどん上がる傾向にあると思われます。商品金額のみに手数料をかけているのは(商品を発送しているのはクリエイターなので、プラットフォームに支払うのはおかしい)という、あくまでクリエイターファーストな企業理念を感じます。
▼送料が上がるワケ▼
世界最大級のクラフト系ECモール「Etsy」だが・・・
では、世界に目を向けてみたらどうでしょうか。世界最大級と言われているのは、アクティブバイヤーが9,000万人以上おり、2005年創業の「Etsy」です。
以前は日本国内からもショップ開設ができましたが、現在はEtsyペイメントの導入により(日本未対応のため)日本からの新規ショップの受け入れは事実上できません。これがクラフトワーカーの越境障壁となり、国内のプレイヤーやShopifyなどのプラットフォームに拡大機会を与えているとも言えます。
近年のエシカル・サスティナブル消費は完全にスタンダードとなり、Etsyではそういったエコ・フレンドリーな商品や作家の人気が高いです。特に女性のクリエイターの支持が強く、セラーの8割は女性オーナーだと言われています。
Etsyで出品した場合、大雑把にまとめると以下の手数料がかります。
- 出品手数料(掲載ごと):0.2USD/個(+4ヶ月ごとに更新料)
- 販売手数料(売れるごと):販売価格の6.5%
- 入金手数料(取引ごと):取引額の3.5%(国によって違う)
結構いろいろな手数料がありますね。
例えば10ドルの商品を1つ掲載して1つ売れた場合、
0.2+(106.5%)+(103.5%)=1.2ドル(≒12%)
となります。他にも海外の場合は為替手数料(2.5%)やラベル手数料などいろいろ細かくあるものの、Creemaの11%よりも高いとはいえ、通常は約12%なので法外に高いというわけでもなさそう。
しかし、ここからがえらいこっちゃで…Etsyの場合、上記の手数料に加えて外部サイト広告費というものが余計に発生するのです。これは販売ごとに「Etsyが広告宣伝を変わりに行っているので、その広告費の一部を負担してちょうだい」というもので、一律で販売価格の15%ほどかかる模様…。
基本は広告に紐づいて売れたら発生する費用であり、年間1万ドル未満(約140万円)の小規模セラーは任意参加ではあるものの、その分トラフィックの恩恵は受けにくくなるでしょう(あくまで予想ですが、内部検索のアルゴリズムとかにも影響している気がします)。
また、1万ドルを超えるといずれにせよ強制参加になります(仮に適用後に1万ドルを切っても12%のままということはなく、15%になる)。
合計すると、Etsyのセラーはで最低12%、最大で30%近く支払う計算になります。平均はだいたい25%と言われており、掲載点数が多いとこれ以上になる場合もあります。
広告費は誰が払うのか
Creemaは販管費における広告宣伝費率が高いようで、前期はCM打ったという理由で赤字になっていました。これを店子であるセラーに半ば強制的に転嫁することで売上に変えているEtsyは、ビジネスモデル的には賢いかもしれませんが、果たしてクリエイターファーストなのか?という疑問が湧いてきてしまいます。
実際にある程度成長した中規模セラーが最も負担を感じやすい設計になっているほか、売上留保金(売れた商品代金をEtsyに保管してある状態)をセラーに支払う金額の下限を引き上げるなど、キャッシュフローが悪化するセラーが増えているため、「ボイコットしちゃうぞ!」という運動はしばしば起きているようです。
Amazonなどの多くのプラットフォームは自分たちの店子の集客のため広告費を支払っており、そのデータを活かしてサイト内のサジェストや広告、在庫管理などに活かしています。Etsyの運営は財務的には健全な構造だが、他社に付け込まれる隙がありそうに感じます(直近は販管費の増加で赤字に転落しており、それで締め付けを厳しくしている可能性もある)。
日本のプレイヤーの可能性
Etsyは全世界でアクティブバイヤー9000万人強という規模で、日本のCreemaやminneのアプリダウンロード数がそれぞれ1400万ほどだと考えると、国内のユーザーはある程度飽和状態に達しつつあると言えるのではないかと考えます。
もちろん、流通総額を増やす手立てはたくさんあるだろうし、広告のようなプラットフォームサービスの伸びしろはまだまだあると思いますが、Etsyの経営状況を考えると、相対的に他のプラットフォームを割安に感じるセラーは多いはず。プロダクトの海外展開に大きなチャンスが存在しているとも言えるのではないでしょうか。
日本はアジア圏との経済格差がかなり縮まっていることや、配送網や物流費を考えると、東アジアへの進出や越境に積極的なセラーのサポート強化など、じゅうぶんに可能性がありそうに感じます(すでにやっているとは思いますが…)!がんばれ日本のクラフト系ECモール!