皆さんこんにちは。日に日に春めいてくる3月。花粉症持ちにはつらい季節になってきましたね。3月のイベントと言えばひな祭りですが、少子化時代の今、ひな人形業界ってどうなんだろう?今回のテーマはそんな素朴な疑問から決まりました。調べてみたところ、ひな人形企業各社で三者三様の生き残り戦略を垣間見ることができました。かつてひな人形を飾った女子も、端午の節句を祝った男子も、ぜひご一読ください。
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逆風だらけのひな人形業界
コロナ以降、日本の出生数の減少ペースは加速していて、2023年の出生数は約75万人というところまで来ました。パーソナリティ・オカダの生まれた年は170万人だったので、当時と比較すると半分以下ですね。単純に桃の節句を祝う対象の人口が減少しているというのが、逆風の一点目。
オカダの幼少期もイタニの幼き頃も、桃の節句ならひな人形、端午の節句なら五月人形を飾るのが当たり前の時代でした。ひな壇の下でかくれんぼしてよく親に怒られた記憶があります。
ただ、昨今の住宅事情や生活スタイルを鑑みると、地方の一戸建てはさておき、特に都市部の住宅や集合住宅では飾るための客間のような余分なスペースが少なく、7段飾りのような大きなものは飾れないという問題も(飾れないというか、もはや保管する場所すらない…)。
さらに和室がないお宅も多いので、THE日本人形だとインテリアから浮いてしまうから飾らないという逆風もありそうです。
節句にまつわるイベントの市場規模
内閣府の2019年の調査によると「ひなまつり・こどもの日」に関連する商品・サービスの消費支出額は、約1,336億円とのこと(前年比0.1億円増とのこと)。
消費支出額の内訳は、以下
- ひな人形関連:約1,075億円
- 菱餅やちらし寿司などの食品関連:約157億円、
- 菖蒲湯や桃の節句に関するイベントなどのイベント関連:約103億円
残念ながら推移を表すような統計は見つけられませんでしたが、近年出生数がハイペースで激減していることを考えると、子どもを対象にするイベント支出が上向く理由がないと思われます。
さらに2020年以降はコロナの影響で結婚数自体も減っていて、連動して出生数も激減しています(年間3万人減ペースだが、母数が減っているので減少率は拡大)。
そんな中でも、節句イベントの市場規模は2018-2019年比でほぼフラット。なんなら微増しているというのは、かなり健闘しているといえるのではないでしょうか。
節句を祝うのは何歳まで?
前述のように市場規模の推移がわからないので、周辺データから推定してみます。まず、節句自体は何歳まで行うのでしょうか?スタジオアリスがこんな調査を公開しています。
これによると、端午の節句より、桃の節句のほうが年齢が上がってもお祝いする家庭が多い傾向がある模様。男の子は小学校高学年まで、女の子は20歳以上でも9.1%が実施していると回答しています!学生のあいだや実家にいるあいだは〜、という家庭が多いように見えます。
ただ、どちらも小学校中学年までで過半数を超え、小学校卒業で7割を超えることを考えると、過去10年くらい(結婚後2年以内に出生するとして、小学校卒業まで)の出生数を見ると連動していそうな気がします。
なお、過去10年の推移をみると新生児は1世代あたり25万人くらい減少しています。年間平均だと2%くらいずつの減少。節句の市場規模もそれぐらい減っていてもおかしくなさそうです。
絵本から類推してみる
一方で、参考になる市場として絵本(児童書)があります。こちらは対象人口(子ども)の減少に対して市場規模自体はそんなに減っていません。
出版不況により全体の販売額が減少するなか、児童書はフラットもしくは微増傾向で推移しています。これには色々な要因が考えられますが、購入者と対象者が一致せず、親世代や教育機関の投資規模が影響しているのではないでしょうか。子どもが減少したとしても、親世代の一人当たりの子どもへの投資額が増えていればありえます。
さらに親の親世代は日本で最も分厚い団塊世代なので、彼らがほぼリタイアした2010年代に生まれた子どもはいわゆる6ポケットと言われ、サポートも手厚い可能性が高い。これは節句ビジネスも似た構造なのではないでしょうか?
ひな人形ブランドはどう展開している?
話は戻って人形業界はこのような環境下でどのようにして市場を維持しているのでしょうか。祝う期間の長さを考えても、桃の節句のほうが規模としては大きそうなので、ここではひな人形に絞ってみてみます。
まずはユーザーの傾向ですが、ひな人形の検索サジェストを見てみました。
ふむふむ。よくある検索掛け合わせでは「コンパクト」や「おしゃれ」、「かわいい」などが並びます。さらには処分や買取というニーズもある模様(実家のひな人形の整理かなあ?)。
こうしたニーズがある中で、各社どのように対処しているのでしょうか。
「にんぎょうーーのきゅーげつー♪」のCMでおなじみの人形の久月。天保六年(1836)創業という大老舗です。
節句人形もオンラインで買う時代ということで、ECサイトがありました。かなりキレイで高級感のあるデザインです。
ひな人形はコンパクト化しているようで、いわゆる雛壇はコンパクトな三段がメインになっているよう。昔の七段は税込で500万円近いものも(!)。
それ以外にも、殿と姫のペアだけで構成された「親王飾り」、飾り台と収納が一体になった「収納飾り」、飾りつけも仕舞い込みもかんたんな「取り付けケース付き飾り」など、先ほど検索でも見受けられた「コンパクト」需要への対応が製品側にも見られます。
消費者側の意向を反映して商品側に反映されていることが伺えますね。
それでも久月ほどのブランドになると、小さな親王飾りのペアセットでもボリュームゾーンは15万円ほど。高価であることには変わりありません。
ちなみにこういった日本の伝統工芸品は海外からも需要があるのか、コロナ前の2019年からは久月は越境ECもスタートさせています。インバウンド需要も高まっている昨今、高級品が売れにくい日本ではなく海外への展開もアリかも?
こちらも有名どころ「顔がいのちの吉徳~♪」のCMでおなじみの吉徳。こちらは創業が正徳元年(1711年)というから恐れ入ります。
ひな人形のラインナップは、久月と同様に「親王飾り」や「収納箱飾り」がメインでした。やはり節句の豪華さよりも現代の住環境によるニーズの変化に合わせて商品を変化させているのは同じようです。
いずれにせよ高額商品であることには変わりなく、かつ一生で何度も購入する商品でもない(きょうだいがいれば新規購入は減るし、世代で受け継がれる可能性もある)ので、消費財のような衝動買いよりも納得して購入したいもの。
そういった意向に対応するように、吉徳は浅草橋本店とオンラインで相談しながら購入することができる相談窓口を開設しているようです。
また、自社のコアコンピタンスを「人形」と位置づけ、伝統の節句人形だけでなく、ぬいぐるみやキャラクターとのコラボなど、さまざまな展開を行っています(久月も人気キャラクターとのコラボをしていますが、吉徳はそれをかなり広範囲に適用しているイメージです)。
スポーツ関連キャラクターの項目にはプロ野球 読売ジャイアンツの「ジャビット」やヤクルトスワローズの「つば九郎」などもありました!吉徳でつば九郎買えるとは思わなかったぜ。。。!
「ひな人形 おしゃれ」といった検索の多さは、ほぼ洋室だけで構成された現代的な空間にもマッチするデザインを求めているのかもしれません。そんなニーズをうまく汲んでいるのが、五色。先の2社と比べると新しい企業ですが(それでも100年!)、五色の人形は現代人の需要をうまくデザインに落とし込んだ洗練さを感じます。
基本的にはどれもミニマルでかわいいデザイン。十五人飾りでもこんなにコンパクトなので、お部屋のレイアウトにすっと馴染みますね。
豆飾りでもさすがは職人の手仕事ということで、お値段もしっかりしていますが、小さなスペースでも飾れて、インテリアとしても馴染む、大ぶりな雛壇と比べれば安価ということで、需要がありそうな気がしますね!
五色が捉えようとしている需要は、ECとの相性がよさそうだなと感じました。
- 小さなスペース:小さいので送料が高額にならない
- インテリアとしてなじむ:若い世帯も多いのでECに抵抗がない
- 比較的少額:祖父・祖母の代からの贈り物ではなく自分たちで購入できる
店舗だとニーズに合う商品があるイメージが少ないため(しかも店舗に行ったら買わなきゃダメなんじゃないかという謎のプレッシャー)、若い世帯は最初からオンラインで探しそうなのも、EC化に拍車をかけていそうです。
というわけで、クラフト系ECモールも活躍の場があるのではと思い、Creemaを検索してみたところ。
「雛人形」で検索してみると、Creemaは8000件以上の作品がヒットする!人気順でソートしてみると、数千円の作品も目立ちます。こういった小ぶりのひな人形や、木のぬくもりがあるような作品、つるし雛などの、既存商品では選択肢が少ないものが好まれていそうです。
どれもおしゃれでかわいいものが多く、こういったクラフト系ECモールと伝統産業の接点はたくさんありそうだなと思ったのでした。
先に出たスタジオアリスの調査でも、8割以上が節句祝いを次世代に残したいと回答しており、区切りや記念を祝う行為としての節句祝い自体は今後もなくならない気がします。ただその在り方が少しずつ変化してきていて、伝統は「商品」から「概念」へと移ってきていると感じました。これら多様な祝い方・在り方が製品に反映されているのは非常に面白いですね。
クラフト系モールについてはコチラの回も読んでみてください!